「ゲゲゲの女房」。
ちょうどテレビドラマになる前、購入&読了していた。
水木しげる(本名:武良茂)夫人、武良布枝さんのご著書である。
なんて素敵な人だろう・・と、私は布枝夫人の大ファンになった。
間違いなく名著。ドラマも期待して拝見したら、こちらも良かった~。
単行本の帯に、水木先生が布枝さんを評して言われた言葉がある。
”家内は「生まれてきたから生きている」というような人間です。それは
スゴイことだと水木サンは思う。”
素晴らしい賛辞だ。
あれこれ細かいことをこねくりまわして悩んだり、賢しらに意見を述べたり。
こんな性質とは正反対の布枝夫人。私が言うのも僭越ながら。
水木先生のご活躍は、伸びやかで聡明な布枝夫人あってこそなのでは・・。
きっと水木先生もこのことを誰よりご存知で、布枝さんに感謝しておられる。
それが先の言葉から伝わってくる。
内容は・・。
布枝さんの生い立ちから始まり、お見合い結婚の後、上京。
水木先生が貸本漫画家だった極貧時代から、今の地位に至るまで。
お二人の夫婦関係が、温かく素直な筆致でえがかれている。
”「終わりよければすべてよし!」”
布枝さんが、昔を振り返り今に感謝してつぶやいた言葉である。
もちろんまだ終わりではない。
だけど、穏やかな晩年を迎えられたご夫婦の今の心境を、そういう言葉で
表現されている・・この場面が一番心に響いた。
”いちばんつらかったはずのあのころがいちばん懐かしいのです”と
布枝さん自身、作品中で語られているように。
「終わりよければすべてよし」の言葉は、今が良いから過去の嫌なことや
苦労が帳消しになったという意味ではない。
大変だった日々も叙勲の晴れの日も。
全てまるごと、おおらかさと愛を持って、全肯定している言葉なのだ。
その時その時で懸命に、精一杯できる限りのことをして頑張り尽くした・・。
だからこそ至った心境であり、その心境から出た言葉だ。
そりゃ水木先生ほど成功されればそう言える・・という意見もあるだろう。
だが違う。どんな晩年だったとしても、布枝さんならきっと全肯定されるはず。
先の見えない苦労の最中でも、今と同じに寄り添い支えてこられた人だから。
こんな未来が待っていますよなんて誰にも教えて貰えない、分からない中で。
それができる心の持ち主だから、素晴らしい今があると言えるのではないか。
今、今、今。
目の前の今に一所懸命になっていれば。
その積み重ねできっと”「終わりよければすべてよし!」”と言える日がくるだろう。
私の目標。
晩年、「終わりよければすべてよし!」と言えるように、今を生きることだ。
それを教えてくださった大好きな武良布枝さんと水木先生。
いつまでもお元気で、長生きして頂きたい。
○「ゲゲゲの女房」 武良布枝<実業之日本社>
水木しげる夫人、武良布枝氏の初エッセイ。
お見合いから5日後に結婚、上京し、以来約50年に渡り
夫に寄り添い支え続けた布枝さんが綴った夫婦の半生。
もう普通だったら、きれたり、愚痴ったり、はたまた離れて
しまいそうな困難の連続。そんな中でも、これ以外に道は
ないと思い定め、夫にただひたすらついていく・・。
ありそうでなかなかない、できそうでなかなかできない、
主婦として見事な、王道の生き方だと思う。
といっても、肩にへんに力など入っておらず淡々と、力強
くさえあるそのあり方が、本当に素敵だ。
ドラマを先に見た人も楽しめて、十分読み応えがあると
思うので、おすすめ。
○「水木しげる伝」(上・中・下巻)
水木しげる<講談社漫画文庫>
戦争に行った時の体験は壮絶な内容。
自然に畏怖と畏敬の念を抱き、分かりやすく、かつ大人が
読んでも深く考えさせられる氏の漫画のルーツを知ることが
出来る。
○「お父ちゃんのゲゲゲな毎日」 水木悦子<新潮文庫>
水木プロにお勤めの悦子さんは、お二人の娘さん。
悦子さんが連載されていたエッセイをまとめた単行本が、文庫
化されたもの。
水木先生の言葉や水木プロでのやりとりを中心に、日常生活
の出来事が楽しくほのぼのと記されている。
水木先生や布枝夫人の飾らないお人柄が伝わってきて和む。