大阪を舞台にした漫画「じゃりン子チエ」。
初めてみたのはテレビアニメだった。
型破りな父親・テツと、しっかり者の娘チエちゃん。
父親に愛想を尽かして母親は出て行き、店舗兼住宅のホルモン焼き店
で二人暮らし。(のちに母親・ヨシ江さんが戻ってきて三人暮らしとなる)
テツとチエちゃんのやりとりが痛快で面白く、一瞬で好きになった。
小学生だった私。母に頼んで原作の漫画を買って貰い、夢中で読んだ。
以来、連載終了まで十年以上ずっと、単行本を買って読み続けた。
私の漫画読みの歴史(大げさ)の中で燦然と輝く星、とも言える存在である。
当時私はチエちゃんにすごくシンパシーを感じていた。
それまでよくみてきた漫画やアニメの子供・・そのあどけなく、幼い様子。
これはこれで楽しく見ていたのだが、チエちゃんを知って、はっとした。
大人より大人らしいといえる、チエちゃんの気遣いや、生き方。
これがとてもリアルだと思った。
そうそう、子供だってこういうこと考えて行動してるもんだよ、と思ったのだ。
チエちゃんと同じくらいの年から読み始め、テツの年齢を超えた今。
人の性格のおおもとはきっと、生まれた時から変わらないんじゃないか・・
そう思っている。
大人なのに働かず、子供みたい(子供よりたち悪いかも・・)な父親・テツ。
子供だけど働いてテツを養い、大人並みの気配りが出来るチエちゃん。
二人はきっと生まれた時から、少なからずそういう性質を持っていたのだ。
環境がどうの、という以前に・・。
心の老成・・チエちゃんを思うたび、頭に浮かぶ。
年齢に関係なく、より老成している方が歩み寄り、力をかさねばならない。
そういう風に世の中は出来ているのかもしれない・・。
一筋縄ではいかない世の中の機微を、面白おかしく、時にじわっとさせて
くれたりしながら私に教えてくれたのが、漫画「じゃりン子チエ」だ。
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「じゃりン子チエ」の登場人物・・一人一人のキャラが立っていて、味がある。
チエちゃん、テツ、ヨシ江さん。そして、おじぃ、おばぁという竹本家のほか。
お好み焼き屋のおっちゃん(百合根さん)と飼い猫アントニオJr.(ジュニア)。
チエちゃんにちょっかいを出すマサルと腰巾着のタカシ。
チエちゃんの親友ヒラメちゃん、兄のマルタなどなど。
大部分が笑い飛ばすように楽しく描かれていて、湿り気はない。
だから時折起こる事件や塩っぱいことが引き立つし、心に沁みるのだろう。
単に明るいだけでなく。
みんな心に屈折や傷を持つ当たり前の人間として描かれているのが良い。
人間もだが、猫も出てくる。
チエちゃんの飼い猫・小鉄(ソロバンや野球などなんでもできる)やその弟分
アントニオJr.の、スピンオフ的な話。
人間となんら変わらない猫同士のいざこざなどが描かれていて、面白い。
不思議なことに。
破天荒なテツに関わる人はみな、なぜか”まとも”になっていく。
悪友だった(といってもテツが振り回していたっぽい)幼馴染は警察官に。
ガラの悪かった無職の人間は、職業を持って働くようになり。
いつまでも変わらず、ぶっとい純粋さを持って生きているのはテツだけだ。
美人で賢く運動神経も抜群で、手に職を持ったヨシ江さんとテツの組合せ。
チエちゃんは、どうしてお母はんテツなんかと結婚したんやろ・・と思う。
私もそう思っていた。だけど。
テツにはテツの良さがちゃんとあり、ヨシエさんもテツだけに見せる顔がある。
それを微笑ましくもさらりと描いてあることに、大人になって気付いた。
小さい時は読んでいてもひっかからず、スルーしていた箇所である。
自分がチエちゃん世代だった頃、テツ世代になった頃。
それぞれ心に留まる箇所は微妙に違っているものの。
何度読み返しても面白い。
子供らしくいることを許されない環境で、たくましく明るく元気に生きている・・。
そんなチエちゃんの老成ぶり。
大人になるにつれ自然と身に付く分別とは無縁・・バクチとケンカ好きな父親。
こんなテツの、はちゃめちゃだけどなぜか憎めないところ。
笑って、時に涙し。
心のツボをぐんぐんついてくる作品世界に入り込み、思う存分楽しむのがいい。
○「じゃりン子チエ」1チエちゃん登場 はるき悦巳<双葉文庫>
これは私が結婚して関東に越してから買い求めたもので文庫本
なのだが、もともとアクションコミックスの単行本(約20年に渡る
連載で全67巻)として出ていて、それは実家にある(はず)。
主人公・竹本チエは小学五年生。働かない父親・テツの代わりに
家業のホルモン焼き店を切り盛りしている。安定感のある主人公
なので、もう安心してみていられるというか、テツの無茶苦茶ぶり
もチエちゃんがいるから楽しめる。ひょうたん池、行ってみたいな。