私には夢がある。
老後の夢というかこんな日々を送りたいという夢。それは・・。
田辺聖子全集を手元に置いて、ひたすら読み耽ることだ。
紅茶とおやつを横に、日がな一日読書を楽しむ。
そのとき手にする本は、やっぱり田辺聖子作品がいい。
全集は何冊か図書館で借りて、少し読み進めたことがある。
だけど自分のものにしていつでも思う存分読み続けたいのだ。
それくらい田辺作品が好き。
田辺聖子さんの著作に出会ったのは中学一年生の時。
「欲しがりません勝つまでは」という自叙伝的な内容だった。
それからというもの、田辺さんのいろんなお話を読んだ。
広範な知識に裏づけされた、趣き深い古典もの。
軽妙でユーモアあふれる、面白エッセイの数々。
どの作品も好きなのだが、最も強く心に響いたジャンル。
それは恋愛ものだ。
どうしてこんなに・・と思うほど、鋭く的確に描かれた心の内。
これはあの時の自分と同じ気持ちだ、と何度感じたことか。
胸がきゅっと音を立ててなりそうな、何ともいえない気持ち・・。
せつない、という感情を真に教えてくれた存在。
それが田辺さんの恋愛作品だ。
人をいとおしいと思う気持ち、哀しいまでの男女の違いや性(さが)。
それらを余すところなく描いて、豊潤な味わいを持つ作品群。
多くのファン同様、私も心摑まれ共鳴し、熱く支持する者である。
柔らかな関西弁で話す登場人物の姿を通して感じるもの。
それは、せつなさと人間という存在のいとおしさである。
すれ違いや思いやり、熱くなり冷めていく瞬間・・。
全てが胸に迫る。
読み手が求めるもの。
それは、正しいとか本当にそうかということではなく。
人物に説得力があるかどうかだ。
田辺さん作品に登場する男女は、圧倒的な説得力を持っている。
男性の、女性の、普遍的な心の動きを描いて、他に類を見ない程の
魅力があり、何年たっても色褪せない。
作品を読めること、同じ時代に生きていることを幸せに思う作家。
田辺聖子さんの著作にまだ出会っていないなら、もったいない。
そう断言します。今すぐにでも田辺ワールドへ。
○「言い寄る」 田辺聖子<講談社文庫>
三部作になっていて「私的生活」「苺をつぶしながら」で完結。
31歳のデザイナー乃里子が主人公。
乃里子の五郎に対するじりじりするような心情描写、他の男性
との軽妙なやり取り、恋模様などなど。
三部作どれから読んでも良いけれどやはり最初の「言い寄る」
から順に最後まで読むのが一番流れに沿って楽しめる。
純粋で、時に幼く可愛らしいかと思えば、老練で大人の女性の
余裕を感じさせる瞬間もあり・・。
瑞々しい感性を持つ一人の女性の多様な表情を描いた作品。
三部作全部読まなきゃー、だし、きっと全部読んでしまうはず。
短編集もいいです。おすすめが絞りきれない・・(笑)。