まっすぐに愛を向けられ嬉しくて 女としては 幸せだけど
走り出す 勇気があればよかったと 悲嘆 後悔 空虚 愛情
「映画の風景 -勇気があれば-」
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◎創作ノート<解説>*ネタバレを含みます
私はハッピーエンドの作品が好きなのですが、ハッピーエンドではなくても、心に深く残るドラマや映画がいくつかあって、その中のひとつの、最も印象的な場面を詠みました。この映画は「乱れる(1964)」。子どものいない夫婦で、夫が戦死し未亡人となった女性が、義弟から思いを寄せられる話です。当時の世間は、このような立場のふたりが結ばれることをよく思わず、干渉したり苦い顔をしたかもしれません。が、私は観ている間ずっと、一緒になってくれたらいいな、この女性の苦労や献身が報われるといいなと思っていました。でも。。世間ってなんなのだろう。血のつながりや親族ってなんなのか。こんなにも一心に一家の大黒柱を担って献身してきた女性が、多くは望まずささやかな、でも満たされて生きる幸せを得たっていいじゃないか。夫亡き後、立場的にも四面楚歌の中、ただひとり、自分の身を案じ、身を挺してでも守ろうとし、愛してくれたのが義弟であったということ。その愛に応えても、誰も責めはしない。というか、責める筋合いはない。と思うのですが、女性は義弟からの愛に応えることはなかった、のです。この映画の白眉はラストシーン。女性が走る。走って走って、立ち止まる。その時の表情。義弟を失った悲しみ。嘆き。こんなことなら応えればよかったという後悔。彼がもうこの世にいないという現実で心に空いた、決して埋まることのない大きな穴@空虚感。あぁやはり私も愛していたんだという愛情。これらの感情が、無言の女性の表情にすべて表れていて、本当に素晴らしいです。私の好きな高峰秀子さんのこの表情をみるだけでも一見の価値ありと言える作品です。勇気があれば。応えていたら。きっと違う未来が、ハッピーエンドが待っていたと思います。たとえ世間や親族の目が厳しいものであっても。義弟役の加山さんもこの頃は細く精悍で、無骨な演技も義弟のまっすぐさや素朴さに反映されててこの役に合っているなと。高峰さんの旦那様の松山先生の脚本がせつなすぎて胸が痛い。ハッピーエンドではないけど、心に残る名作です。