両片思い -『初恋』の世界-

求めてたのは 奪ったものではなく 必要とされ 愛されること
バイク駆る 愛を動機に堕ちる道 高揚の後 待つ 虚無の中

「両片思い -『初恋』の世界-」

—-

◎創作ノート<解説>*ネタバレを含みます
私小説、手記のような筆致で書かれた『初恋(2002)』は、著者が自身を”「府中三億円強奪事件」の実行犯だと思う”と記している作品で、宮﨑あおいさん主演で2006年に映画にもなりました。読んで思ったのは、この作品で三億円事件は主眼ではなく、想い合う二人の、行動での告白、それに応える・受け入れるひとつの形が事件の計画と実行であり、手段だったのではないかということ。反体制や当時の社会情勢やそれぞれの背景などをすべて削ぎ落したところにある愛、結晶化した清らかな気持ち、依然としてある(けど以前とは別の)さみしさや追憶、虚無を描いている。みすずが求めていたのはお金ではなく愛で(岸もそう)、それは肉親ではなく岸からのもので、愛する岸に必要とされたから実行した。便りを寄こさなくなった岸が、もうこの世の人ではないかもしれないと予想しながらも、待っている。のではないか。仲間や肉親との情やつながりを失い、初めて愛した人を待ち続ける。幼き日とは違う、初めての恋を知ってから感じる孤独と虚無の中で。岸もみすずも最初からお互いが好きだった。けど最後まで直接伝え合うことはなかった。ただ、その両片思いは結実していた。伝え合わず、もう一生会えなくなってしまっていても。真相は誰にも分からない。ものの、ノンフィクションではないかと感じさせる作品であり、恋愛物語です。